ごくごくいつもと変わらないやりとりのはずだった。
少し珍しいと言えば、直政が佐土原を訪ねるのではなく、豊久が佐和山に来ていたという程度。
ぐしゃぐしゃとあれやこれやが散乱した部屋で、直政は仕事をしていた。
難しい顔をして「むーん」と妙な唸り声をあげながら部屋を行ったり来たりしている。
考え事をしている時の直政の癖で、それもごくごくありがちな日常風景である。
「少し落ち着いたらどうだ」
様子を見に来た豊久が呆れた。それもいつも通りである。
直政は「んー」と生返事をし、一応座って筆を持った。
それから黙々と筆を動かし続ける。
空高く輝いていた太陽が沈み、夜を迎えてもその単調な動作は終わらなかった。
再び様子を見に来た豊久は今度こそ呆れ返る。
「お前の仕事ぶりは節度がない。いつか体を壊すぞ」
直政はまた「んー」と意味をなさない声をあげてから
「そんなに俺の体調が心配なら、佐和山に嫁に来るか?」
と言った。
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