約束の時間をいくらか過ぎていた。

仕方なく夏侯惇は執務室に向かう。
案の定そこには、眉間に深い溝を作った男がディスプレイを睨んでいた。
壁にもたれ掛かりながら夏侯惇は後ろにあるドアをコンコンと叩く。

「忙しいのか?」

「ノックは入って来た後にやっても意味がないだろう夏侯惇」

そう言いながら曹操は夏侯惇に目を向ける。

「…ふむ。もうそんな時間か」

「珍しいな。孟徳が時間に遅れるなんて」

その言葉に曹操が肩をすくめる

「就業時刻ギリギリに時慈郎の奴が重要案件をねじ込んで来たのだ。まったく帰り間際に間のわる…」

続くはずの曹操の言葉は夏侯惇の口の中へ吸い込まれた。
いつのまにか移動していたのか。夏侯惇の体は曹操のデスクに乗り上げていて、彼に覆いかぶさるように唇を奪った。

舌をからませ、唾液をすすり合う。

しばらくして、はっと夏侯惇は唇を離す。

曹操の表情はいつもの神龍コンツェルンの峻厳な顔だ。
ただ口許だけが彼自身と夏侯惇の唾液にまみれてテラテラといやらしげに光っている。
その唇を夏侯惇がゆっくりとなぞる。

「褥をあたためておいてやる。」

隻眼の魔女が妖しく微笑む。

「だから早く私の体を熱くしに来てくれ」

白魚のような手が、曹操の耳の上の髪をすいた。
それまで微動だに反応を示さなかった曹操の瞳にかすかな炎が宿る。
曹操は髪の毛を梳かれることが好きなのだ。
ついでに唇を少し開いて赤い舌をのぞかせる。
そうすることで、より曹操を煽ることが出来る。
待っている。そう言って曹操の瞳の中にしっかりと色欲の炎を確認した後、夏侯惇は部屋を退室した。










夏侯惇は男であった前世より、女として生れ変った現世の方がイキイキとしていると自覚していた。
男では出来ないことが、女には出来る。
たとえばこんな風に。
夏侯惇は曹操の背中をなぞる。素肌から逞しい筋肉の感触をさまざまと感じることが出来る。
曹操は夏侯惇の下腹を弄り、時々くちゅりと音をたてる。
熱いため息をつきながら、クスと夏侯惇は笑う。

「知っていたか?前世の時から私は孟徳に抱かれたかったんだ。」

とっておきの内緒話を教えるかごとくに耳に注ぎ込まれた睦言に対して、曹操は動じることなく答える。

「私より体格の良かったお前を組み敷くのは、さぞや大変だったであろうな。」

「私は抱いて欲しかったのに、どうして抱いてくれなかった」

「知らんな。そんな文句は2000年前の私に言え。とりあえず今は」

曹操は溶きほぐした夏侯惇の花弁の中に、自身の切っ先を入れる。

「お前のこの体を味わいたい」

ずぶすぶと曹操のものが、夏侯惇の体内へ埋まっていく。
あぁ、と悩ましげに眉を寄せ、夏侯惇が甘く啼いた。

渇いた音を立てて肉と肉がぶつかりあう。
2人の息は弾み加速度的に部屋の温度が上がっていく。
曹操の背中に爪をたてる。さきほどまでさらさらとしていた肌が、しっとりと汗ばんでいる。

「――夏侯惇」

「…はぁ…なんだ?」

曹操は激しくピストン運動をし、夏侯惇はそれに合わせ慣れた動きで腰を振る。


「お前はこんな時には、本当はどちらの名前で呼ばれたいのだ。昔の名か、それとも今の名か?」

「ふっ…これはお前らしくない。…あっ…呼び名などどうでも良いわ」

お前が他の誰でもない。この自分を呼び、自分を見て、自分を感じてくれるのなら――

曹操の動きにいよいよ容赦がなくなって、存分に夏侯惇の濡めつく膣内を蹂躙する。

「ふぅっ…はぁ…あ…あ…くふ…」

夏侯惇の内部からだらだらと愛液がとめどなく流れていき、くちゅぐちゅと濡れた音が響く。
曹操の肉棒がぐぅと勢いよく、子宮近くの肉を抉る。
堪らず夏侯惇が涙を流して身悶えた。

「あっ…ツァオが・・・孟徳が、子宮に入って…入ってくるぅぅ…イイ!…あぁぁぁ…もぅ…!!」

夏侯惇の形が良い爪先がぴんと反り返って、太股がびくびくと痙攣する。
同時にぐっと曹操も腹に力を入れる。


――!


達する時に曹操が口走った言葉は自分の名だとわかった。
しかし夏侯惇の快楽にのぼせ上がった意識では曹操がどの名前で自分を呼んだのかわからなかった。








音のない静寂。
かすかに聞こえてくるのは、となりの男の微かな息遣い。
夏侯惇は男の腕の中で、じっくりと神龍コンツェルン総帥の寝顔を見つめる。

――お前が先に眠るとは珍しい。よほど疲れているのか。

常時険しい顔をしている男も、さすがに寝ている顔は穏やかだ。
眉間に皺の寄らないその顔はあどけないとさえ感じる。

夏侯惇は曹操の頬にかかる髪をそっと、よけてやりながらほくそ笑む。

こんなにも近くでこの男を感じることが出来る。
こんなにもこの男に触れ、この寝顔を独占する事ができる。

ああやはり、

女はたのしい。


End

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死んで生まれて、

貴方に抱かれて、

ほら人の生はこんなにも楽しい