ずっとその体を腕に抱くことを渇望していた。
そのためだったら何だってするだろう。
まるで恋を覚えたての子供のようだと、稚拙で愚かしい欲望を笑うことはできても、捨てることはついには出来なかったのだ。


※※※※※


闇夜に紅梅がしなだれる。
かぐわしくも美しい春の夜。
庭の四阿に呼び付けられたと思えば、主からいきなり「お前の忠誠の証をここで見せてみろ」と言う言葉だ。

「…ここでてすか?」
「そうだ」

まだ少し冷たい春の風と同じように、涼しげにのたまう主。

――貴方は知らないのだ。

貴方のその言葉や仕草がどれだけ魅力的に私の心を掴むのか。

夏侯惇の心に少しだけ意地の悪い心が芽生えた。
いつもならかたくなに反対して部屋につれていく。だが今回は「このような所で誰かに見られても知りませんよ」と言葉ばかりの戒めで主君の豪奢な着物をするすると脱がした。
闇夜に白く肢体が浮き立つ。細くはないが均整のとれた筋肉をまとう美しい体だ。
夏侯惇はいつものように妖しく匂いたつ体を手でまさぐり、あちらこちら舐めまわした。
右の脇の下から胸板を舐めて行く。近くにうっすらと色付く果実が目に入る。甘くかじりつく。
唇でついばみ次に指でこねる。それを交互に施していると、曹操が体を少しよじった。
夏侯惇はふっと薄く微笑み、左の果実もやわやわと刺激した。

「……っ……は……ぁ………」

微かに聞こえた曹操の甘い呻き声、もっと聞きたくなって責め立てる。
上から髪をひっぱられ、引かれるままに唇を合わせる。舌が絡み唾液が顎に滴り落ちる。
快楽に蕩けながらも、曹操の夏侯惇を見る目はまるで痛ましいものをみるようだった。
――私たちの関係はそれほど珍しいものではない。
片方だけが好意を持っていてもう片方は体だけを求める。
いっそ男女の仲で言えばありきたりとすら言えた。
こんなことで魏の曹操が心を痛めているのが意外でもあり愛しくもあった。

顎に滴る唾液をすくい、その指で彼のの秘所を愛撫した。

「……ぅ……っ…はぁ……」

曹操は眉根を寄せる。曹操の中に指をいれると、ふっと主君の息を飲む声が聞こえた。
くちゅくちゅと蜜を秘所に塗り込んでいけば、熱い吐息が夏侯惇の首筋を撫でた。

「……はっ…あ…ふ………」

頃合を見計らって二本目を挿入する。
濡れた音が大きくなった。曹操の中は熱く指に絡んで来る。
俯く主の頬には朱がさしている。もっと快楽を与えたくて奥のしこりをつつくと、曹操の体が跳ねた。

「…あぁ!ふっ…はっ…あぅ…」

しつこく奥のしこりを突いていると、曹操が抱き付いて来た。
彼の熱い体を感じる。せわしない喘ぎ声がもっと近くで聞こえる。
彼の勃起した性器が着物ごしにあたって夏侯惇は興奮した。
三本目を挿入すると、曹操の体が震えた。
ぐいっと後ろ首を掴まれる。

「…はっ…もういい……お前を俺の中にいれてくれ」

はい、と答える自分自分の声は欲情で掠れていた。
息苦しく感じて着物の襟を緩める。
すると緩めた襟から曹操の手が侵入し、厚い夏侯惇の胸を撫でまわす。
その官能的な刺激に色情をさらに煽られ、上目遣いに誘う視線に夏侯惇はとどめをさされる。
曹操の腰を引き寄せて、指で一気に貫いた。

「くっ…」

衝撃に曹操が目を閉じて眉を寄せる。反射的に夏侯惇の胸を押し退け、背が弓なりにしなる。
その悩ましげな仕草にドクリと夏侯惇の性器が反応し誘われるまま腰を動かす。

「あっ…ふぅ…はぁ…あぁ」

律動を始めると曹操の腕が首に絡まってきた。
顔を近付けて、噛み付くように唇を求めて来る。勿論夏侯惇がそれを拒むはずもない。
ざらざらと口内に侵入してくる舌の熱さに夏侯惇は狂喜した。
それはずっとずっと望んで本来なら得られるはじもない熱。背徳の快楽。

「…………っふぁ…く…ひぁ、あぁ」

お互い息がつらくなって唇を放す。すると曹操の口から零れる刺激的な喘ぎ声。
誰も魏の丞相がこんなに淫らで魅力的な声で鳴くとは誰も知らないだろう。
夏侯惇は苦笑する。否、自分だけではなくもう一人居る。
巧みに気配を消しているが、武人である夏侯惇には曹操の忠実な従者の気配を察知していた。

「・・・俺を抱きながら、考えごとか?夏侯惇」

「貴方様のことを考えていたのです」

「女を口説くような安い言葉はやめろ」

曹操の口調は執務の時となんらかわりない。変わっているのはしどけないその姿だけ。
快楽にほてった体を春の風が撫でていく。
それは2人を現実に覚ますどころか、さらに倒錯的な快楽にのめりこませた。

「あぁ…っくっ!はぁ…あっ…」

一段と激しくなった夏侯惇の動きに曹操が悲鳴をあげる。
がくがくと下から体を揺さぶると、曹操のほどけた黒髪が揺れた。
ふさがらない曹操の口から唾液が伝う。舐めとると甘い味がする。
唇にあたる曹操の髭の感触に幸福を感じた。

「……はっ………ふ……は…」

「…あぅ、ふ…ひっ…あ…はぁ…」

熱い吐息が絡みあう。肉がぶつかりあう渇いた音とぐちゅぐぢゅと接合部から卑猥な音が響く。
どくどくと曹操の性器から透明な蜜があふれ出す。
性器を強く締め付けて来る曹操の内部に大きく息をつく。
汗が額から流れ落ちる。その汗を夏侯惇の仕草を真似るように曹操が舐め取った。
曹操が挑発的な視線で夏侯惇を見る。

あぁ、求められている。
どくりと心臓と陰茎がが脈打つ。同時に曹操の内臓を貫くように、彼を壊すように激しく責め立てた。

「あっ、ひぃ…あぁっぁぁぁーー!」

曹操が強い力で夏侯惇の背中に爪を立てながら果てた。
収縮する内部に夏侯惇も数度曹操の体を揺すって達した。


肩を大きく上下させて息を整える曹操の背を擦る。
黒髪の下に見える眦が赤く染まり、あでやかに美しい。

――貴方が心を痛めることなんて何一つないのだ。

曹操が与える痛みなら、いくらでも甘んじて受けるだろう。
そう言う意味では自分は被虐趣味なのかもしれない。
あぁ、なんて浅ましく醜い慕情。
むしろ苦しめているのは自分のほうなのではないかと夏侯惇は思う。
従兄弟に性行為を求めることに後ろめたさを感じている曹操。
清廉なんて言葉は自分ではなくむしろ彼のためにあるのだ。

しばらくして落ち着いた曹操が夏侯惇の膝の上のままにいることに気づく。

「…重くはないのか」

「まさか。お許しがあればずっとこうしていたいくらいです」

「…お前の言葉は理解に苦しむ」

そう言って曹操は体を夏侯惇の胸に預けた。

夏侯惇は抱き締めながら、ふっと微笑んだ。



理解なんてしなくて良い。

好意を返してくれなどと思わない。

ただ貴方とこうしていられるばそれで自分は満ち足りるのだ。





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苦しみと悦びと、