ある一瞬の狂騒のような熱情は、青く冷たい残り火になってその部屋を彷徨う。



敗れた礼服、床に落ちるのは精液と血液。
そこかしこに痛々しい鬱血を残した肢体を破れた礼服で隠しながら、男は目の前の獣を睨みつけた。
その乱れた髪の下には、触れれば切れそうな眼光。
噛み締めた唇からは細く血が滴り落ちる。
極上に扇情的なその姿はたまらなく、獣の情欲をそそった。
その魅惑的すぎる姿から、まるでこうされることを待っていたようだと、獣の傲慢さが錯覚させる。

「…この程度で買える程、儂の憎悪は安くはないぞ?」

「知っている」

獣はニヤリと笑い乱暴に男の顎をつかむ。

「だから、何度でも刻み込んでやる」

獣は男を再び押し倒しながら、その口許から顎の下へ流れ落ちる血を啜った。




獣の牙に滴る蜜