幼馴染みに告白して、答えが貰えるのを今か今かと待っていた時だった。

 派手なブレーキ音。
 それに続いて響く、鈍い衝突音。

 参ったなぁ。と直政は思った。
 目の前の人に申し訳ないことに体がまったく動かない。
 道路に飛び出した猫が居て、直政は咄嗟に助けようとした。
 直前で猫の存在に気付いた車の運転手もかなり無茶な方向にドリフトした。
 結果猫は助かり、直政が轢かれた。
 運転手は慌てて携帯を取り出し、しきりに「大丈夫ですか!?」と声を掛けてくる。
 彼の車は電柱にぶつかり前方のバンはひしゃげてしまっている。あんな風に無茶なドリフトをすれば、それも当然だった。
 まさか直政も猫一匹のために容易く車を犠牲にしてしまえる人間がそうそう居るとは思わず、余計な真似をしてしまった。
 悪い事をした。
 お前はおせっかいだ。幼馴染みは度々そう注意してくれていたのに失敗してしまった。
 いかにも善良そうなこの人に迷惑をかけるのは大層気が引けるが、どくどくと妙に生暖かいものが頭から流れ、意識も薄れ始めてしまってどうにもならない。

――後はあいつに任せよう…

 あいつなら…きっと自分の考えることなど、全部わかってくれるだろうから……

『とよひさ』と彼の名を呼び、
『泣くなよ』と願って直政の意識は闇に沈んだ。


   * * *


 今にも土下座をしかねない男を豊久が止めた。

「これ以上謝らないで頂きたい。貴方は謝る必要もないし、あの男も貴方に申し訳ないと思うこそすれ恨んではないでしょう」

 ですが、と言い募ろうとする男の言葉を遮る。

「あいつは悪に正義が負けるより、正義が正義に討たれた方が良いと考えます。そういう奴です」

 それでも思い詰めている様子の彼に「大丈夫ですよ」と言葉をかけて豊久は病室に入った。

「この間抜け」

 豊久の言葉に、ピッ、と電子音が答えた。

「まぁ、生きていただけお前にしては上出来か」

 白い病室。心電図が規則的な鼓動を伝えるのに直政はまったく目覚める気配を見せない。

「…今度は私がお前を待つ」

 ギシと音を立てて傍の椅子に座る。
 寝顔を見つめながら、豊久は彼の手首を掴んで頬を寄せた。