豊久は寝返りを何度も打っていた。城が静まりかえった夜更けである。

――ああ、苛苛する。

それはそれは恐ろしい顔で、豊久はぎりぎりと敷物を握った。
素直に認めたくはないが恋仲と呼ぶべきであろう男と一番最近顔を合わせた記憶は、信じられないことに一年前である。まさかの一年前!
元々が佐土原と佐和山と言う遠距離恋愛のため、半年に一回に顔を合わせるのがせいぜいという頻度だ。しかしさすがに一年も会わないのは初めてである。
文は一応何通か届いている。しかし最近は仕事が忙しいらしく、返事が滞りがちだ。おかげで「忙しいのだったら、こちらから会いに行く」という文の返事も届かない。

――まったく!

 ごんっと豊久は敷物越しに床を叩いた。
 情を通わせた相手に会わなくても、体に欲が溜まってしまうのは生理的な現象だ。
 豊久は潔癖な性格なので、心に決めた相手以外の睦みあいはなるべく避けたかったが、どうしてもという時には女を抱いた。一応城主として子供を成すことも役目ではあるのだし(といっても、親族に子供はいくらでもいるので、さして切羽詰まったものではないが)
 だが、適当な女では満たせない欲もある。

――抱かれる快楽。

 こればかりは適当な男で済ませる訳にはいかない。
 心を許していない相手に身を委ね、秘すべきところを犯されるなど考えるだけで身の毛がよだつ。
 つまり抱く快楽はかろうじて、抱かれる快楽には滅法飢えている。あけすけだが豊久の現状を表せばそんな感じだ。
 敷物を弄っても、体にわだかまった熱は一向に引かない。
 豊久は息を吐き観念した。
 体を仰向けにしたまま、そろそろと手を下肢に伸ばす。