●○再始動○●
長浜について来て、もうどれ程の日にちが経っただろうか。
もうすっかり周辺の地理を覚えてしまった中で紀之介は友を探していた。
主君を探しに行ったはずの三成が帰ってこない。
しかし案外近くの低木の影にその細い背中は隠れていた。
「佐吉」
「あっ、紀之介…・・・」
「どうかしたか?」
「いや、何もないぞ!」
「殿を見なかったか?」
「み、見てないぞ。どこに行かれたのだろうな!」
その友人の焦りように将来智将と呼ばれる紀之介の直感は、ぴんと閃いた。戻ってきた秀吉は上機嫌で肌もツヤツヤ。一方うぶな三成は赤くなって背中を丸めている。
殿め。佐吉に見えぬ所で致してくれれば良いものを。
「佐吉」
ふっと耳に息を吹き込むと、ひゃっと三成はびっくりして耳を押さえる。
可愛い。皆の前に出したらこんな可愛い男食べられてしまう。
「顔が赤いな。熱があるのではないか?」
「や…紀之介…どこに触って…!?」
「良いから良いから。私に任せて見るのだ。な?」
フッフッフッと妖しい笑みを浮かべると紀之介は佐吉を空いている部屋に連れ込んだ。
「――今思えば吉継も必死じゃったね」
「だって〜。誰にも三成をあげたくなかったのだ」
「わしは物かね?」
「違うのだ。三成はそれがしの、それがしの…・・・」
「あのーすいません。なんで今、ここで、その話してるんですか。わし超辛いんですけど」
三成と吉継の話を遮ったのは直政である。無理もない。大きい鉄の籠、現代で言う「ワゴン車」の中で、彼は三成と吉継に挟まれた席にいるのだ。後ろには左近、家康、忠勝が座っているのだが、左近は慣れたもので「殿と刑部殿はいつも仲良しであられますな」と相槌を打って、家康は当然寝ている。忠勝は聞こえないフリだ。
その時寝ていたはずの家康の目がカッと開いた。
「刑部の夜の武勇伝が聞きたーい!」
「恥ずかしいのだ〜」
「殿はお願いします。もう黙ってて下さい」
「うむ」
答えたらまたすとんと家康は寝てしまった。自由である。忠勝は窓の外の景色を「いい天気じゃの〜」と遠い目で眺めている。左近は後ろから三成と今日のおもてなしについて話しかけ、吉継はまだ照れ照れしてる。
何これ。わし超疲れる。
おもてなしが始まる前に疲労困憊しそう。
直政はげっそりしつつ、前を向いた。ぱっと表情が明るくなる。
「各々方! 着きましたぞ!」
はやくこの席から離れたい! という意志が滲み出る掛け声であったが、見覚えのある駅近くの風景に「お〜」と車内で歓声が沸く。家康もぴょんと起きる。
本来なら関ケ原武将隊の活動は去年で終わり、六武将も役目を終えて現世から消えるものだと思われていた。それが色々な奇跡とたくさんの関係者の協力を得て、期間限定のおもてなしとして活動を再開する事になった。そして今日が去年のファイナルステージ後、初めて関ケ原武将隊がお客様をおもてなしする日だ。
関ケ原に来てくれたお客様がもうすでに待っているのが確認出来る。
鉄籠が止まる。。
三成がぱっと扇子を広げた。
「皆のもの出陣じゃ」
「「「応!」」」
関ケ原から412年後初夏。使命をもって再び舞い戻ってきた武将達の活動はまだ始まったばかり。
(天正3年某日→平成24年6月24日)
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