膝裏に腕を回し腰を抱える。
相手の足は地に着かず、己の腕だけが相手の体重を支えている。
心許ないのだろう。力一杯首に抱きついてくる。
その拍子、楔がより深く彼の中を犯す。
「・・・うっ、あ・・・」
直政が白い喉をさらす。
長屋と長屋の狭間。
通りかかりみとがめられることも、住人に気づかれる可能性もある。
普段なら決して行わない行為。
だが、いつもと違うからこその高揚も確かにあった。
豊久は追い打ちをかけるように直政の体を上下に揺さぶり、打ちつける。
直政がいやいやするように首を振った。
「い・・・ぁっ、だめ、豊久・・・!そん、なにしたら声、がっ・・・!だめぇ、あっ・・・」
「ここですることを承諾したのはお前だろ?私との行為なら声を殺せるとたかをくくったか?」
「ちが・・・!」
「ふん、いつも私の下で女のようにないているのが誰か思い知るがいい・・・!」
直政の一番弱い所を突けば、艶やかな喘声が夜闇を彩る。
「ひっっ、ぁ!!」
そのまま加減なしにうちつけ、ゆさゆさと揺さぶる。
直政はがくがくと震えながら、豊久の背中に爪を立てた。
がりがりとひっかかれた背中は着物ごしなのにも関わらず、行為の激しさを示すように血を流している。
「あぁ、ふ、んぁ、あ!」
瞳を潤ませ、口元から涎を流す直政は、例えようもなく淫靡だった。
「は、んっ!」
顔を傾け、食らいつくように直政の唇を塞ぐ。
暖かい粘膜は豊久を受け入れ、舌をあわせた。
直政の欲望から、接合部分から、流れた先走りがぽたぽたと地面を濡らす。
息苦しさを覚えた直政が後ろに頭を引いた。
同時に豊久は彼の首筋に噛み付く。
「ひぃ、っぁ!もう、いくっ!・・・あぁっ!!」
ぎゅうと強くすがって、直政が白い飛沫を吐き出した。
緊張の直後の弛緩により、ぐんと重くなった直政の肢体を支えながら豊久もうめき、放った。
荒い息をつきながら直政の足を片方ずつ下ろす。
よろけながらも、直政はなんとか無事に着地した。
「・・・良かったな。ばれなくて」
「ああ・・・」
「豊久、汗まみれだ」
ふふふ、と笑って直政は豊久の頬を舐める。
言葉を返す気力を惜しみ、豊久は黙って身支度を整える。
直政は眠たげに壁に寄りかかった。あの体位は直政の体力も相当削ったはずである。
寝息が聞こえてきたのは、それからすぐのことだった。
汗で髪が張りつき、胸元をはだけさせたまま男は眠りについた。
見かねて豊久が整えてやるが、起きる気配を見せない。
首筋に流れいた血液は、すでに止まっている。
豊久は少し考えた後、直政の背を胸に抱いた。
自分でも珍しい、と思える行動だった。
両足の間に彼の体を挟み、何をするでもなくぼんやりとする。
静かな時が流れた。
月が白銀の光を涼やかに落とし、風が音もなく頬を撫でる。
腕の中では直政がすうすうと寝息を立てている。
彼の漆黒の髪を梳く。
穏やかな時間。
胸がじんわりと暖かくなる。
こういう他愛も無い瞬間が、好きだ。
ずっとこのままであれば良いのに。願ってしまう。
永遠など叶わぬと承知しているのに、夢を見る。
それほどまでに、自分は「この瞬間」に執着している――
直政がもぞもぞと身じろぎをしたかと思うと、ぱちりと目を開いた。
あれ?と直政が声をあげる。
きよろきよろとしてから、もう一度「あれ?」と言う。
豊久はすぐに放して立ち上がろうとする。
だがそれより早く直政が腕をつかむ。
「もう少し」
子供のように無邪気にねだられて、豊久はふんと鼻を鳴らしながらも、直政の胸の前で手を組んだ。
直政は嬉しそうに笑っている。
ずっとこんな時間が続けば良い。
さもなくば、今すぐすべて滅んでしまえ。
その思考は愚かで、どうしようもなく稚拙。だが、だからこそ紛れも無い本心で、豊久を憂鬱にさせる。
溜息をついた豊久を、直政が不思議そうに見つめた。
Fin
10.7.23
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