豊久の朝は早い。清(さや)とした朝の空気を肌に感じ、褥から抜け出し廊下に出ようとする。
その時ふと嫌な気配を感じ取って咄嗟に床を踏み締めようとした足を止める。
足をどかして見れば、青いりぼんをつけた小動物もどきが床に転がっている。
その光景に朝の爽やかな気分は消し飛び、ぞっと肝が冷えた。

――あ、危なかった…!

胸を撫で下ろしながら、危うく踏み潰すところだった小動物もどきをひょいと摘み上げる。
りぼんの部分を摘んでいるせいで、腕と足がだらんと垂れ下がる。小さくなっても寝汚い所は変わっていないようだ。
そのまま簡単に用意した彼の寝床に連れて行く。
たった今彼が爆睡して転がっていた所から寝床までは一尺以上ある。
一体どんな寝相の悪さを発揮すればあそこまで移動できるのだろう。果てしなく謎である。
寝ている時にまでこんなにうろちょろされては堪ったものではない。いっそ佐和山から来た時の箱の中に寝かして上から蓋をしてしまおうか。

――…暗くて嫌だとか駄々をこねそうだな…

容易に想像出来る反応に朝から大きな溜め息をつく豊久であった。




Fin


初出09.8.4