それは形式化された一種の儀式のはずだった。
主君の男根を丹念に、心を込めて奉仕する。いつもの始まりが覆された。
「殿?」
「今日は趣を変える」
そっと裾を割り主君の男根に顔を寄せようとすれば遮られ、着物を脱いで横になれと言わた。
直政はすぐに従ったが、ほんの少しだけ不安だった。
主君のすることに不満などある訳がないが、この身にすぐ主君の逞しい男根を受け入れるには負担が大きい。微かに冷や汗をかきながら待っていると主君が覆いかぶさって来た。
直政は思わずぎゅっと目を閉じる。
だが訪れたのは衝撃ではない。
自分の男根が生暖かいものに包み込まれる感触に、直政は飛び上がらんばかりに驚いた。
「殿!?」
尊敬するべき主君が自分の男根なんぞを口に含んでいる。
いつも自分がしている奉仕を、あろうことか主君が自分に。
「おやめください、殿!それは殿がすべきことではありません!!」
だが主君にやめる気配は一向にない。
むしろ卑猥な音をたてて先端を吸われ舐められる。
ひぃと直政は細い悲鳴をあげる。
主君の舌使いは恐ろしく巧みだ。
「……っぁ、おやめください!殿!とのぉ!!」
直政は必死に訴えるがそれ以上の制止が出来ない。
主君以外の人間なら頭を押さえるなり蹴り飛ばすなり出来るが、相手は主君。
せいぜい許されたのは懇願の言葉。
だがその懇願すら、なにごともなかったように無視される。
ぴちゃぴちゃと濡れた音が股の間から聞こえた。
「あっ…あぁ……っふ」
直政は身を捩らせる。
筒を舐められながら、とんとんと下腹を軽くつつかれるとびくびくと震えて腰が浮いてしまう。
ぐしゅっと先走りが溢れ出すのを感じて直政は焦る。
「殿!お止めください!も、もう…気をやってしまいま、す……ぁっ、ぁぁ…」
慌てて腰を引こうとするが、主君は腰をがっちりと掴んで離してくれない。
それどころか先の亀裂に舌をねじ込んで来る。
ひぁっと直政のあられもない声が漏れ、肢体が大きくて跳ねた。
はしたない声に口を塞ぎ、直政は涙ながらに訴える。
「との、とのぉ!…あぁ」
「良い。出せ」
ぐんぐんと熱が中心に集まっていき、理性を焼き切ろうとする。
駄目だ、駄目だ、と熱を散らそう首を振るがまったく効果がない。
腹の下が熱い。ぬめぬめとした厚い舌が、指が先を弄って…殿が…あの家康様が…口で……
――!
喉をのけぞらせ、唇をかみしめる。
ぎゅっと下腹に力を入れて直政はぎりぎりの所で、快楽の大きな波を耐えた。
はぁ、はっと早い呼吸で主君に哀願する。
「との…!後生でございます!おやめください…ひ……ぁ…!」
「……手間のかかる奴だな」
家康はふぅと溜め息をつくと、直政の欲望の根元を握った。
そのまま上下に扱きながら、先端を口に含んで出し入れする。
ぐちゅぐちゅと濡れた音が響く。
「ひぃぃ、ぁ、ぁぁ、との、おゆるしを…!…ふぁっ…ぁ」
直政の体が快楽にあがなおうとする。
だが強張れば強張る程、舌と掌の感触を生々しく感じる。
直政のこめかみにじっとりと脂汗が流れた。
――あぁ、家康様の手が俺のを扱いている。俺がいやらしい汁を流しているから。だから殿の手がすべらかに動くんだ。あぁ、殿の手が俺のを、俺のなんかを……先が熱い。熱い粘膜が…殿の口が……
かち、と先端に小さくて固いものがあたった。
それが主君の歯だと気付いた瞬間、直政は放っていた。
あまりに強い快楽に意識が弾けて、白い闇と同化した。
だが束の間の自失の後、直政は青褪める。
――自分は今、何を、した?
どっと冷や汗が流れ出す。
恐る恐る主を見れば、髭に白い物がついていて直政は卒倒しそうになった。
「お前のは味が濃いな」
「と、殿…!」
飄々とした主の言い草に直政は目眩を覚える。
――も、申し訳ありません…!
と、か細い声で謝れば主は眉をひそめる。
「これで終わりではないぞ」
「えっ?…ぁっ!と、殿、おやめくださ…やぁぁ…」
くたりと固さを失った直政の雄を、節くれだった手が擦って快楽を促す。
家康は人の悪い笑みを浮かべている。
「やめろと言う啼き声も良いが、飽きたな。もっと、と啼かせてやろう」
そんなはしたない真似を、主は自分に望んでいるのか。
衝撃を受けて動かなくなった直政の肢体を、家康は思うままに蹂躙した。
家康が直政の腰を押さえているのは抵抗を封じ込めるためというよりも、びくと感じて跳ね上がろうとする肢体を固定するためであった。
直政の体は白絹を紅梅色に染めたように色づいている。
喘ぐ声すら甘く、匂いたつような色香を漂わせていた。
色づく体に走る傷跡を一つ一つ愛でれば、直政はくしゃくしゃと顔を歪めて嬌声をあげる。
「は、ぁ…ぁぁ……ひぁ、ぁっ…」
すすり泣き震える直政を眺め、ある意図を持って家康は愛撫の手を止める。
「…あっ…いえやす様?」
突然止まった家康に、直政は戸惑って、恐る恐る様子を窺う。
答えてくれぬ主に、腰は無意識に強張るように揺れた。ふるふると勃ちあがった雄が涙を流して訴える。家康は口角を吊り上げた。
「直政、正直にそちの心の内をその口で申せ。どうせすべて――」
視えている。
かっと直政の頬が快楽とは違う意味で熱を持つ。
視られている。見透かされている、すべて。あさましくも貪欲に主を求めている欲も。
これまでこれほど一方的に、執拗に、愛でられ快楽を与えられたことなどない。
奉仕するのは直政で、優先すべきは主の快。
そうやって閨で尽くしてきた直政に、次々と与えられる快楽を受け流す器用さはない。
主の指一つ、舌の動き一つに翻弄されている。
快楽に体も心も溶かされてしまっている。
羞恥で戦慄く唇で、直政は必死に言葉を紡いだ。
「上様、直政にお慈悲を、お慈悲を下さいませ。もっと……もっと俺に下さい…っ」
「良く言えた。直政」
家康は直政の赤く腫れた雄を口に含む。直政が期待と安堵を滲ませた声をあげ、背をしならせる。
じゅっじゅっといやらしげな水音が響く。
直政が悩ましげに眉を寄せ、呼吸を早くする。
「はぁ、はぁ、ぁっ…ぁぁ、殿っ…!気持ちいい、です…とのっ…もっと…!」
先の亀裂にざらざらとした主君の舌があたる。
唾液と体液に塗れた袋を巧みに弄られる。
がくがくと直政の体が震え、ぽろぽろと悦の涙が零れる。
「あっ、ぁっ、ふぅっ…との…っ…また気を…気をやってしまいます。とのぉっ……っ」
「良い。許す」
「ふんっ、ぁぁぁあっ!」
直政の雄が弾けた。
溢れる白濁の液を家康がまた顔色を変えず飲干す。
口淫でいかされたのは今日が初めてなのに、もう口淫で何度果てたのかわからない。
果てる都度家康は飲干したので、主君の腸は直政の子種で一杯のはずだ。そう考えるととんでもなく恥ずかしく、申し訳なく、また――震えるほど嬉しかった。
それだけに身を起こした主君が何を言ったのか、一瞬理解が出来なかった。
「さて…、夜ももう遅い。今宵は終いにしよう。もう下がって良いぞ」
直政はぽかんとした。
直政はまだ何も奉仕しておらず、当然ながら主君は一度も気をやっていない。
むしろ行為だけみれば主君に奉仕させてしまったとさえいえた。
涼しい顔で身なりを整えだした家康に、直政は慌ててとりすがった。
「殿!お、お待ち下さい」
「なんだ」
「直政はもっと…もっ…と殿と深く交わりとうございます」
家康は温度のない視線で直政を見る。
そして、はぁと溜め息のような息を一つつくと、おもむろに己の小袖の裾を割った。
不安そうにしていた直政の様子は一転し、すぐに子犬がじゃれつくように直政は家康の股座に顔を寄せた。
主君の一物に唇をあて、頬擦りし、舌をだして、丹念に舐めていく。
唾液を塗りこむように舐めまわして、口内に迎え入れた。
「ぅん…ぁ…む…んぁ…はぁ…」
弾む息に邪魔をされながら、直政は一心に主の熱を高める。
口の端から銀の糸を零し、じゅぶじゅぶと音を立て咥えたまま前後に動かす頭を家康が軽く撫でた。直政の動きにさらに熱がこもる。
さすがに家康の呼気も乱れ始め、雄もしっかり固く張り詰めた頃、直政の髪を弄っていた手が止まった。
「ふ……もう良い。……四つん這いになれ。慣らしはしないが、良いか?」
「…はっ…、構いませぬ」
口の周りを唾液と体液で濡らした直政は、すぐに主の指示に従う。
腰を家康に抱え込まれ、直政の体に緊張が走る。痛みに対する恐れと――期待に心拍が早まる。
入口に異物を感じた瞬間、思わず目を閉じた。
だが挿入されたのは太い灼熱の杭ではなく、主の乾いた指であった。中を確認するように、ぐるりと指が円を描く。
「あぁ、これなら大怪我とまでいかぬな」
「殿……」
「ふっ…随分淫乱に育ったものだな。――万千代」
まるで催促するような直政の声音に、家康は意地の悪い笑みと苦笑を混ぜたもので答えて指を抜いた。
「…ぁ…ぁっ!うぁ"ぁぁっ」
完全に熔けていない秘所に、主君の固い雄を捩じ込まれる。
ぎちぎちと秘所の縁が悲鳴をあげた。直政が髪を振り乱して訴える。
「あぁっ!裂け、て…裂けてしまいます、殿…!ぃぁ、ぁぁっ、ふ…」
言葉では恐れの声をあげ眉を苦しげに寄せながらも、直政のだらしなく緩んだ口は笑みを浮かべていた。
それは雄を身の内に入れて悦を得る女の顔。悲鳴をあげながらも微笑む。屈強な武者となった直政が女の顔になる。
その差異がどれだけ倒錯的で淫猥なのか。当の本人は知らないだろう。
「ふぁっ、…くるし、ぁ…ぁ…はぁっ、やぁぁ…」
「…力を抜け。もう全部入る」
言葉通り、まもなく家康の雄のすべてが押し込まれた。
だが直政が息をつく間はなく、すぐに律動は開始される。
瞬間、焼けるような痛みを感じた。
中が切れたのだろう。
しかしその痛みは欲望を衰えさせるものではない。その証拠に直政の雄は固く熱く張り詰めて揺れている。
家康が抜き差しする度々に中の傷が擦れ、どくどくと熱が蓄積する。それが快楽の熱と合わさり、下半身が熔けてしまったように感じられた。
「あっ、ふ…ぁつ…あつぃ、です…はぁ……いえやすさまぁ…あっ、ぁぁ」
痛みと快と熱に直政の理性は吹き飛んだ。
彼は主君の雄により強く擦って貰うために、自ら腰を揺らしている。
ぐしゅと直政の雄から先走りが溢れ、ぽたぼたと 褥に落ちる。
「ひぁぁ、…!いえやすさま…うえさまぁ…もっと下さいませ、ぁっ…ふぁぁ、ぅ!」
家康の腰を打ち付ける速度が早くなる。直政は強く褥を握りしめた。ぐちゅぐちゅと卑猥な音が響き、接合部分から血が一筋零れる。
直政の体はこれ以上ないほど赤く赤く上気し、玉の汗が大量に浮いていた。
「…あふっ、ぅ、んぁぁっ!!」
がくがくと大きく震えながら直政が達した。
射精は一度で終わらず、間隔を開けて数度白いものが吐き出された。
家康が手を放せば、がくりと直政の体は崩れ落ちる。
はぁはぁと荒く早い呼吸をし余韻に浸っている。
家康は褥に胡座をかいて座った。彼の雄はまだ立派に隆々としている。
「直政」
声を掛ければのろのろと直政が起き上がる。ためらいなく家康の上に跨がって、ずぶずふと再び主の雄を身の内におさめた。
「んぁっ ぁぁ!」
串刺しにされるような感覚に直政は高い声をあげた。
不自然な体勢は主に自らの体重をかけないようにするためのものだ。直政の足は戦慄ながら己の体を支えている。
「…良い、昔のように儂に身を預けよ」
その指示に珍しく直政がためらう素振りをみせる。だが主の指示に逆うことは出来ず、すとんと完全に腰を落とした。
自然、中の肉は深く抉られ、あぅと喘いで直政の喉はのけ反る。
その喉元を舐めて、家康は低く囁いた。
「さて直政、お前に付き合ってやったからには……わかっているな?」
直政がとろんとした目付きのまま、にこりと笑う。
「はっ…、精一杯、勤めさせて頂きます」
それは戦場で赤鬼と呼ばれている男の笑みとは思えぬ程、無垢で穏やかな笑みだった。
直政の腰が弾むように上下に揺れだす。
「うっ、ぁ、ぁん…はぁ」
もうほとんど力の入らない足と腰を使って、ひたむきに直政は主君に奉仕する。
家康は自らの腰の上で踊る寵臣の胸の尖りの片方を舐め、片方を指で摘んだ。
「ひぁ、ぁぁ…!」
直政の声が甘く切なげに響いた。
家康は深く寝入る家臣を起こさぬように、湯と手ぬぐいと軟膏を用意させた。
先程まで深く睦みあったせいで、直政の体にはまるで土の上に落ちた散り桜のように鬱血が広がっている。
直政相手だと常に冷静な家康の理性も乱れ、ついついやりすぎてしまう。
彼ほど口にする言葉と、心の中で思っていることにずれがない者はいない。その事実を確かめるために、酷くしてしまう。
直政の片足を持ち血を流す秘所を確かめ、軟膏を塗る。
汗と体液で汚れた傷だらけの体を拭っていく。
「…まったく。手のかかる奴だな」
そう言ってから、否と自らの言葉を打ち消す。
――手のかかるのは儂の方か。
家康は至極愉快そうに自嘲した。
Fin
10.4.30
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