突然、飢えを覚えた。

喉がカラカラと舌もざらざらと水分をなくし、助けを求めるように隣を歩いていた男の肩をつかむ。
男はすぐにこちらの状態を察したようだ。豊久は手を引かれて小屋と小屋の間に引きずりこまれた。
男は何も言わずに衿を広げ首筋を晒し、獣の牙はすぐに皮膚を食い破って赤い罪が滴る。


痛いはずだ。痛いはずなのに。

もっと、と請うように頭を抱き込まれる。


甘い、濃い味が喉を通る。

直政の息に艶が混じる。相手を支配していくような優越と快。


もっともっと、と欲が疼く。


恋情がさらなる吸血を求め、恋情がこれ以上はと阻む。

甘い甘い匂いが鼻孔を擽る。

耐え切れずするすると掌が男の太ももを辿り、裾を割る。
掠れた声が豊久の口から漏れる。


「どうして…」


抵抗しない?
豊久は二重の意味で尋ねたが、直政の答えは簡潔であった。


「好いた者に求められててどうして嫌がる?」


たまにはこんなはらはらする場所でやるのも良いな。
より、滾る。


屈託ない笑顔で答える男を呆れながらも、豊久は猜疑を抱いた。

お前が構わないと思ってるのはまぐわいだけか?

本当は血を吸われて……そのまま死んでも良いと思ってるのではないか?


直政の一途で刹那的なまでに情熱的な性格を考えれば酷く不安だった。
だが豊久は尋ねることが出来なかった。
肯定されたら堪らないし、きっときっぱりとした否定は聞けない気がした。

豊久は不安を振り払うように、ぶつけるように相手の唇に己のそれを合わせ、舌を吸った。



Fin


10.4.30

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 念