*甘やかな脅迫


「そなた浮気はして無いであろうな?」
「へぇ?」

目の前の男らしく無い単語に、元親が興味を持つ。

「気になるのかい?」

杯を傾けながら、ニタリと笑う。
それに答えず、元就は別の事を口にする。

「昔。夫の酷い放蕩に怒った女房が、寝ている夫の男根を切り取ったというな」

元親は杯を止めた。
顔を寄せて唇を求めて来た男に答える。
離した唇から、はっと吐息がもれた。

「…愚かな事よ。女のやる事は愚鈍で好かぬ」

我ならば。

「その男の首を、切り取ってやろうぞ」





*疎ましい言葉。
長→毛(パラレル)



どうして。

問いの先の答えを見るのが嫌で、思考を打ち消すのは、きっと自分ばかりではないはずた。
割り切りの良いのが性分で、物事に決着をつけるための言葉は人並みに持っている。

だからそんな言葉を浮かべるのは随分と久方振りで、その言葉の青臭さと口に広がる苦々しさに元親は戸惑う。
どうして、あの時俺たちは上手くいかなかった。
どうして、あいつはあの時振り向かなかった。どうして俺はあの時あいつを追いかけてこなかった。

どうして
俺はあんなにも昔のことで、今も苦しんでいる?

気がつけば口の中の苦さは、舌を刺すような酷いものになっていた。
元親はそれを誤魔化すように、酒を大きく呷った。