姫松*玻璃の檻



血で染まった鎧がぼろぼろと、剥がれて。
中から少年が現れる。膝をついて、顔を覆って。
周りには、敵と数多の味方の朱で染まった破片

肩を震わせる少年に暗闇がそっと囁く。何よりも優しげに

――何がそんなに辛いのですか。松寿

少年は答える。


生きていくことが


生きて生きて生き抜かなければならないことが。


辛い。


こんなにも


辛いのです。



――母上。


空を掴むように腕が伸ばされる。

その肩を、ふわりと別の腕が包む

「待っていて」

すぐ、傍に行くから。


鈴の音のような少女と思わしき声がして

彼女の白銀の髪が頬を擽った。









長毛*炎獄



辺りは一面、紅蓮の炎に舐め尽くされている。
圧倒的な力の前に策は破れ、隣の体力自慢の同盟主も肩で荒い息をついている。
戦況は絶望的。
戦場は味方の死臭に満ちている。
元就は未だ諦めず状況打破の策を考えるが、頭の片隅ではあっさりと自分の死姿の像を結んでいる。
同時にぜえぜえという呼吸を繰り返す、この男と一緒に此処で死ねたらと、ねっとりとした昏い愉悦を覚える。
女のようだ。
この男に抱かれてから、まるで己は女になってしまったようだった。
自嘲していると、膝をついていた男が碇槍を蹴りあげた。

「――行くぜ。元就」

頷きながら、元就も男の後を追う。

ただ男に置いていかれないように、走った。