4.



拘置所はすべて直線で出来ている。
四角いドアに、四角い畳、四角い窓。飯を運んでくる刑務官も皆、定規で図ったように背筋を伸ばしていて、酷く面白味に欠ける。
仕方なく小さな窓から、ちぎれた雲を数えていた元親のもとへ、その男は面会に訪れた。

「おぅ。イカしたSP連れてるじゃねぇか」
「おぅよ。毎日毎日俺がグースカ寝てるときも、俺の安全を守ってくれてるわけよ。しかもタダで」
「へっ!身辺警護の上に、血税で飯喰いやがって。身分は大臣さまと一緒って訳か?俺よりrichな暮らしだぜ」

どかりと椅子に座ると、眼帯をつけた男二人が向き合う

「Hey!これがテレビで良く見る面会って奴か」
「まんまだな。本当にガラスに穴空いてるぜ」
「当たり前だ。声が聞こえねぇだろうが」

興奮した子供のように、そわそわとガラスごしに顔を寄せ合う。
目の前の男は、高校からの付き合いで因縁深いことに大学も同じだ。もっとも院に進んだ元親とは違って、卒業と同時に家を継いでいる。肩を並べて馬鹿なことばかりしていた友が、今では立派に建築会社社長であるというのは、信じられないような笑ってしまうような話だ。

「痩せたな」

ふざけた笑いを収めたあと、気遣わしげな視線を送られる。
元親は苦笑する。自覚はあった。動かなければ筋肉は落ちる。

「学校はどうなってる?」
「学園祭よりよぉぽど盛り上がってるぜ?あのお堅い毛利教授が男子生徒を誑かして、腹上死。生徒は頭を抱えてパニック。大学のジジィどもは腰を抜かして、卒倒者は三人。学長に至っては辞職届けどころか辞世の句を読み出す始末。ははっ、あのタコハゲの顔と言ったら…」

肩をすくめた伊達が、真剣な面持ちなる。

「――だから俺は止めろって言った。何度も。端から見てもお前たちは危うすぎた」

元親は黙った。
何も答えない友に伊達はため息をついた。

「元から俺は毛利が好きじゃなかった。あいつは陰湿で、ずる賢い」
「しかも計算高い策士で」
「その上自分のことしか考えない。我が儘な奴だった」
「だが、そこが元就の可愛い所だった」


元親がフッと口の端を上げた。
それを苛立たしげに、隻眼が睨んだ。

「時間です」

沈黙を遮られる。
元親は「短ぇな」とボヤキながら立ち上がった。

「この、特大馬鹿のお人好しが…っ!」

背中に投げられた言葉に、元親はひらひらと手を振った。