※死にネタぶっ飛ばして、ネクロフィリアものです。
「ねくろふぃりあってなーに?」という清らかな精神の持ち主は見ないほうが無難。
正式にはネクロフィラスものって言うのかな。性描写はないです。
※つまるところマッド系です。最後は確実に……なヨカン。
「マッドってなぁに?でんぐり返しする時に使うマットじゃないの?」
などと言えるお嬢様には確実に不要な世界の話です。
※熱い原作(?)の豊久ファン。
「私は格好良くて、誤った道には絶対行かない強い豊久が好き!」
も見ない方が得策です。以下の駄文は豊久であって豊久ではないです。
「…おーけー。多分俺は大丈夫。経験値と防御力には自信があるぜ」
という百戦錬磨の姐御だけお進み下さい\(^o^)/
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目を開けたらすべてが終わっていた。
鳥頭坂で瀕死の重傷を負った体が、元のように動けるようになるまで一年と半年の歳月を要した。
その間に、命からがら私を近くの農家に運びこんだ部下は命を落としていた。
農家の老夫婦に飛脚を雇う金はなく、時勢を読む術を知る訳もなかったので、私は死んだものとして世は動いている。
老夫婦をそのことをしきりに詫びたが、私はこれで良かったのだと思った。
今日明日の食い物を求めて働く農民にこれ以上負担をかけるなど出来る筈もなかったし、何より「島津豊久」の死は後世に関ケ原の激戦のほどを伝え、その中央を突破したという前代未聞の偉業を成した伯父の名をより知らしめることになるだろう。島津の家にとってこれ以上の利はない。
私は歩けるようになってすぐに老夫婦の家を去った。申し訳ないことに、せめて食い扶持を減らすくらいしか私が彼らに返せるものがなかったのだ。
あてどもない放浪を始めて一年が経とうかという頃、それは私の耳に届いた。
――佐和山の新しい城主様が亡くなったらしい。
さらに時を待たずしてこんな噂も流れた。
――城主様の死を惜しんだ家康公は、彼の方の遺体を佐和山中の鍾乳洞で保存しているらしい。
決まってなんと恐ろしやと結ばれるその噂を聞いた時、私は会いに行こうと思った。
佐和山の新しい城主とは即ち、この世から「島津豊久」を葬った人物である。やかましい男だったが、武力も忠義心も最後の敵としては申し分ない相手だった。
彼を一目見ておこう。遺体は人の形をすでになしていないかもしれないが、それは武人として数々の死を見て来た私にとって問題ではない。
私はさして深く考えずそこに向かった。
佐和山は険しい山だった。
だが私の居た城も峻厳な山に建つ山城だったので、さして山道は苦にならなかった。
二日ほど探して、やっと遺体が安置されていると思わしき場所を見つけた。だが入口にしめ縄がはりめぐらされている。
私は一瞬入るのをためらうが、人除けのためのものだろうと思い至って足を踏み入れた。
すぐに私は異変を察する。
季節は初夏を迎えているのに、洞窟の中はしんと冷えきっている。何よりも腐臭がしないことに私は表情を曇らせた。
――遺体はもう埋葬されたのだろうか。
疑いながら中へ中へと入っていき、私はそれを見つけた。
鍾乳洞の一番奥。
石台の上にそれは超然と、"在った"。
見たこともない厚い氷。
その中で彼は目を伏せ、横たわっていた。
紙よりも青白い肌。
その白さに反するように黒々としている髪。
刃を交えた時は燃えるような闘争心を宿した瞳がとかく印象的だった。だが、こうして瞳が閉ざされていると目許はきりりと涼やかだったのだとわかる。
とても端正な顔立ちの男だったのだ。
身に着けている白い単衣が肌に貼り付き、体の輪郭を露にしている。
病み衰えたのか記憶よりも随分と細い体格になっていたか、それでもなお均整がとれた体躯である。
だが、右肩から肘にかけて変色している肌の色が濡れた単衣から透けている。
彼の病は破傷風だったと聞くが、噂は本当だったらしい。右腕は醜くく爛れていた。
しかしその醜さは少しも感動を損なうものではなかった。
むしろより強く心を打つものだった。
美と醜が一体となって凝固している。
時の流れに逆らい、そこに在り続ける―――不変。
私は一目で心を奪われてしまった。
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