※関ヶ原後で、当然のように西軍全員生還です。
※直政は家康が唯一衆道の相手として寵愛した人間説採用。
つまり家康×直政前提。必然的に直政は美形。
※まさかの直政=知勇兼備です。そんな莫迦なな感じで頭の井伊、直政(ええー。
※途中でがっつり豊久×直政があります。
※あまり史実を勉強してません。ところどころというか至るところを愛とノリで目をつぶってやってください。
以上一つでもまずいと思った方は記憶を抹消してお戻りください。
大丈夫な方は進みくださいませ!
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何気ない身じろぎでふいに走った腹部の痛みに豊久は微かに眉をしかめた。
天下分け目の戦い。そこで瀕死となった豊久は奇跡的に持ち直し、今は日常の生活に戻り始め居ている。
だがその日常も以前とまったく同じ日常という訳にはいかなかった。
豊久は着物を緩め腹の包帯を解いた。
関ヶ原で負った傷。ほぼ間違いなく自分を死に至らしめたはずの傷。
一生傷跡が消えないことは明確で、もしかしたら臓物まで響くような鈍い痛みすら完全に消えないかもしれない。敗戦の屈辱の証。忌々しいものでしかないはずのそれに、しかし豊久は不思議な愛着を持っていた。むしろそれは豊久にあの絶望的な戦から生還したという感慨に浸らせたのである。
豊久は傷の状態を確認すると誰を呼ぶでもなく、すり潰しておいた薬草を傷口に塗りこんだ。
その上からきつく包帯を巻いていると、城の外がにわかに騒がしくなった。
騒ぎの中で一際大きな声に豊久は不機嫌さをあらわにした。
そして恐る恐るという足取りで近づいてくる家臣の足音を聞いて、豊久は溜息をついて筆を置いた。
「お館様。井伊兵部大輔直政殿がお見えです」
「…支度をする。私が出るまで井伊殿は放置しておけ」
「承知しました」
羽織をはおって外に出れば、見覚えのありすぎる男が1人で騒いでいた。
その男。表面だけ見れば誰もがほう、と見惚れてしまう程の美丈夫である。
艶やかなぬばたまの髪。無数の傷跡が走っているがそれでも不思議と美しい白肌。細面の顔立ちに、はっとするほど涼しげな瞳。
関ヶ原後、彼が初めて尋ねてきたときは、思わず豊久は「どちら様ですか?」と聞いてしまった。
よもや目の前の麗人と戦場で腹が立つほど喧しかった男が同一人物とは。すぐに理解するには差異がありすぎた。
しかしどんなに絶世の美貌の持ち主でも、口を開けばただの「井伊直政」だったのである――。
豊久が険しい表情を隠さずに近づいて行くと、直政は「おお!やっと来たか遅いぞ!!」と使いも寄越さずに勝手に来たくせに文句を垂れる。
「わざわざ佐土原までお越しとは、何用ですか?」
すでに青筋が数本額に出ているが、豊久は言葉遣いだけは丁寧に応対する。
どんなにはた迷惑な人間でも公用の用件ならば大事な使者である。
「ああ、一緒に酒を飲もうと思ってな。来た!」
「酒だと?」
私用だと知れた瞬間に豊久の言葉遣いは砕ける。
豊久は心底呆れ返った。つまりこの男は酒を酌み交わすためだけに佐和山から此処まで来たということなのだろう。酔狂すぎて豊久には到底理解出来ない。
直政をぎろりと豊久は睨みつけた。
「ふん。何故私が貴様と酒を酌み交わす必要がある?」
「そう言うな。療養中の身同士仲良くすることが正義というものだ!」
療養中の身とは、佐土原の山城を軽々登ってきたくせによくもまぁ言えたことである。
馬鹿を言ってないでさっさと帰れ。そう言い返して背を向けようとした豊久だが、ふと思い立って考えを変えた。
「…ふん。貴様と不味い酒を飲むのは不本意だが、わざわざ此処まで出向いてくれたものを追い返すほど私も鬼ではない。城に入るが良い」
直政が目を輝かせ「いざ、正義の盃をかわさん!」などと言い始める。
一方密かに豊久は口の端を吊り上げた。
井伊の煩い馬鹿鬼め。酔い潰してやる。せいぜい無様な醜態を晒すがいい――。
延々と続く主君家康自慢に適当に頷きながら豊久は酒を注いだ。
直政の家康への礼賛はすでに聞き飽きた話だが、天下人の情報を知っておくことは無駄ではない。
豊久は実に根気良く直政の言葉を聞きながら彼に注文をつけた。
「おい。もっと客観的に話せ。貴様の話は正義、正義と主観的なものばかりだ。」
「ふふん。家康様の素晴らしさを語るのに正義という言葉なしで語るのは不可能!というか主観的なものなしで人を評するには不可能だろう。可能というならば貴様が示してみせろ。島津」
直政のくせになかなかまともなことを言う。豊久はよかろうと頷いた。
「ふん。貴様などに伯父上の素晴らしさを語るのも勿体無いが…」
豊久は義弘の戦功の数々をあげて語った。
尊敬している義弘の話だ。普段はどちらかというと静かに酒を飲む豊久も、つい口数が多くなる。
話しながらふと豊久は酔いが回ってきていることに気づいた。
酒を飲んで体が火照ってくるなど久しぶりだ。動悸も早くなっている。舌も自分にしては回りすぎだ。
豊久が焦った。ここでもし自分の最大の汚点である酒癖――笑い上戸を直政に知られたら死にたくなる。直政の醜態を笑ってやろうと思ったのに自分の醜態を晒してしまってはどうにもならない。それだけは阻止しなければ。
豊久は意識を酒に奪われないように気を張りながら、隣りで豪快に酒を浴びる直政を見る。
うっすらと頬に赤味が差しているが、それほど酔っているように見えない。
莫迦な、と思う。薩摩の酒は強力で他国の者などすぐに酔い潰してしまう威力がある。
――薩摩の男が、飲み比べで易々と負けて堪るか。
豊久はこっそり躍起になって、酒を呷る。
自制しようという理性より、意地の方が勝ってしまった。
かぁっと喉の奥が焼け、心地よい気分になってくる。
まずい。と、豊久は感じた。
「どうした島津。顔が赤いぞ。酔ったか?」
「っ…、誰が!」
言い換えそうとした瞬間、くらりと視界が揺れた。豊久は唸りながら額を押さえる。
やはり酔ったなと楽しそうに笑う直政の声に黙れと一喝しようと顔をあげる。
すると存外に彼の顔がすぐ近くにあって驚き、さらに次の瞬間言われた言葉に目を見張る。
「島津、好きだ」
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