好きだ。
まるで皮膚の上からその言葉を溶かしもうとでもいうように、その男は丹念に何度もその言葉を告げるのだ。
開脚した足の、太腿を撫であげられて、息が漏れた。
「…っ、ぁ…はぁ…」
体の奥を犯す揺さぶりに、後ろに肘をついて上体を少し起こした状態で豊久は耐える。
直政にとってはそれが誘いに映ったのだろう。腰の動きを止めぬまま仄かに色づく胸の尖りを甘く噛んできた。
「ああっ!…ふ…ぁっ…ぅ…はっ…」
「島津。好きだ…」
甘い快楽とその言葉に、頭がおかしくなってしまいそうな錯覚に陥る。
体の奥を犯すと同時に精神まで犯されていくようだ。
こんな経験は初めてで、自分を変えられていくような感覚に恐怖すら覚えるのに、同時に心地よいと思ってしまって手放すことが出来ない。
直政が豊久の魔羅を激しくしごいた。
豊久の体が大きくのけぞる。
「ぅっ、ぁぁっーーー!」
快楽が弾ける寸前。
すきだ。という掠れた声がまた聞こえた気がした――。
「…傷だらけだな。」
情事の後、部屋に戻らないと駄々をこねる直政を追い出す気力も体力もとうにない豊久は仕方なく新しい布団を用意した。
その布団に遠慮なく横になった直政の体を見て豊久はぽつりと言った。
今更ではある。しかし何度見てもその傷の多さに驚いてしまう。
当の本人は眠たそうな気配を見せながら、笑顔で答える。
「ああ!一つ一つが正義の戦いの勲章だ!!」
そう元気良く言った後、直政は無造作に前髪をかきあげながら、少し低い声で付け足した。
「まぁ…必要に迫られてという部分もあるが…」
「必要に迫られて?」
怪訝に思って問い返せば、直政が面白そうに豊久を横目で見た。
「珍しいこともあるものだな。島津が俺の話に興味を持つなんて」
直政はごろりと仰向けに寝転んだ。
「俺は徳川家家臣の中では新参者だからな。地位に見合った努力の証は目に見える形でなければおさまりが悪いのだ」
つまり直政が進んで前線に立っていたのは本人の気性に寄るところと、同僚の妬みと謗りを免れるためという部分もあったということだろうと豊久は察した。
それは数多くの戦場に出ていながら傷一つ負っていないと賞賛される徳川家譜代の本多忠勝とは対称的な姿だと言えた。
「ふん…それほどのものか。貴様にとっての内府殿は」
「あたりまえだ!家康は正義!この世の光!あの方がいなければ今の俺は存在しない。あの方のためなら何でもするぞ!そう…家康様のためならば…なんでも……そう………………」
そこで直政の言葉は終わった。直前まで心酔する主君の話をしていためか、至極幸せそうな寝顔である。
その寝顔を眺めながら豊久は
――この男を哀れに思った。
直政は確か、とても幼いときに実父を亡くしていたはずだ。
家康は直政にとって君主であり、家を救ってくれた恩人であり、そして父なのだろう。
その家康と周囲に認めて貰うためにこの男はこの男は傷だらけになりながら闘っているのだ。
それは豊久に亡き父の代わりに面倒を見てくれた義弘の顔を潰すわけにはいかぬと我武者羅に闘って戦功をあげた己の過去を思い出させた。
あの時はそうするしか自分の居場所を獲得出来ない気がして、ただ必死だった。
ふと直政とかつての自分が、重なった。
豊久は静かに直政に覆い被さる。
目を細め、ゆっくりと彼の唇に触れた。
「……ふん」
そして何事もなかったかのように、豊久も眠りについた。
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