※豊久が女と×××しています。
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予鈴が鳴ると、どっとキャンパスに人が溢れかえる。
豊久の目は直政の姿を探していた。水曜の共通授業の他に直政に会えるとしたら、火曜の4限の前後と、今の金曜2限と3限の間だった。
会ったら心をかき乱されるだけだというのに、姿を求めずにはいられない。想っても無駄なのに、想いを捨てられない。これではまるで恋そのもの。
友達に戻りたいという望みを一番裏切っているのは、多分己自身だ。
――今日は会えそうにないな。
失望と安堵を複雑に絡ませた感情を抱え教室棟に向かおうとした時、ふと正門の側の女性が目とまる。
意志の強さを伺わせるアーモンド型の瞳。肩口切り揃えられた髪。水色のアンンサンブルに白いスカートの装いで非常に清楚な出で立ちである。さしずめ良いところの令嬢と思わせる美しい女性だった。年は少し豊久より上かもしれない。
誰かと待ち合わせているのだろうなと考えていると、彼女に走り寄っていく人影があった。
直政だ。
彼は何度も頭を下げた。彼女は少し怒ったように頬を膨らませたが、すぐに笑って直政の腕をとった。直政も腕を振り払うでもなく、二人は和やかに学校を出る。
豊久は少し呆然としてその様子を見てから、逃げるように教室に駆け込んだ。



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自分だって女性の柔らかさを知っているのに、直政に特定の女性がいることが許せないだなんて随分都合の良い話だ。

――彼女から想いを告げられたのは、高2の夏。特に親しい訳でもなかったので、とても驚いた記憶がある。もっとも突然というのは豊久の主観で、彼女の方から何かしらの秋波は送られてきていたのかもしれない。生憎と豊久はその手のことに鈍い上に、中学の卒業式以来ことさら投げやりに過ごしていたので、あったとしても気づくことは不可能であった。
豊久が彼女を受けいれたのは、彼女の物静かで芯のしっかりした性格が好ましいと思えたのと、なんとなく彼女と自分はあうだろうという予感があったから。何よりこれでまともになれる、過去を忘れることが出来るかもしれないという期待があったからだ。
彼女との交際は穏やかに順調に進み、自然な流れで肌をあわせた。
初めてだという彼女を怖がらせないために、慎重にゆっくりと事を進めた。だが今思えばそれが駄目だったのだ。
彼女の様子をうかがうために、豊久は白い肌をまじまじと見つめた。安心させるために何度も肩を撫でた。そのうちに豊久は気づいてしまった。
――直政より柔らかくて、細い。
そう己が考えてしまっていることに。

豊久は酷く狼狽した。

経験があの時しかないのだから、思いだしても仕方がない。そうやって宥め平静になろうとしても、次から次に彼の姿を思いだしてしまう。
彼女と繋がった瞬間には、埃っぽい体育倉庫で体を開いて泣く彼の淫靡な姿態を鮮明に思い浮かべた。
彼女の漏らす声と、直政の声が二重音声になって豊久の耳に届く。
こめかみから汗が滴る。
声なき声で彼の名を呼べば、意識が白く弾けた。

最低だ。
行為をなんとか終わらせたが、豊久の罪悪感は途方もなかった。
言いようの無い申し訳なさを感じ、彼女とはその後すぐに別れた。
彼女の笑顔は、直政に似ている。大きな喜びではなく、小さな喜びに出会ったときのはにかむよう笑顔だ。
気づいてしまえば、どうしようもなかった。

豊久は彼女に別れて欲しいと頭を下げた。

彼女に何も非はない。非はすべて豊久にあった。
自分の苦しみを紛らわすために、彼女を利用したのだから――




09.12.23

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